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千葉家庭裁判所 平成3年(少)3010号 決定 1991年10月15日

少年 A(昭○.○.○生)

主文

少年を教護院に送致する。

少年に対し、平成3年10月17日から、90日を限度として強制的措置をとることができる。

理由

(申請の要旨)

少年は、平成2年12月19日から、養護施設a学園に入所しているものであるが、平成3年5月末から4回の無断外泊を繰り返し、外泊中は、市原市内を放浪・野宿し、自転車盗、万引等をしながら生活していたが、同年7月24日からは、千葉県○○児童相談所で一時保護を開始したものの、保護所でも安定せず、保護開始数日後には無断外泊し、以後4回の無断外泊をし、外泊中は、市原市内を放浪しながら、野宿や不良グループとの交遊を重ね、自転車盗、自動車盗、恐喝、警備員に対する乱暴、万引、自販機荒らし、ゲーム機荒らし、電話機荒らしなどをしている。

少年の家庭は、父母は昭和63年1月協議離婚し、母は精神分裂病で入院中であり、父はb刑務所に服役し、兄弟は養護施設に入所中で、居住していた借家は明渡しになり家もなくなっており、家庭の指導力は全くない。少年をこのままの状態で放置すれば、今後窃盗、恐喝、道路交通法違反等の非行を犯す虞れがあり、開放的な枠組みでの指導は困難であるため、より強制的な枠組みでの指導が必要であると認められるので、強制的指導のできる国立教護院に収容するにあたり、90日間の強制的措置を講ずることができる旨の許可を求める(これら事実は優に認定できる。)。

(虞犯事実)

少年は、前記申請の趣旨記載のとおりの非行を行ってきたものであり、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当の理由がなく家庭に寄り付かず、犯罪性のある人または不道徳な人と交際し、自己または他人の徳性を害する行為をする性癖があるものであって、その性格または環境に照らして、将来窃盗等の犯罪を犯す虞がある。

(適用法案)

ぐ犯事実につき少年法3条1項3号イ、ロ、ハ、ニ

(処遇の理由)

少年は、父母が昭和63年1月離婚したことから、親権者の母に養育されたが、小学生のころから、自転車盗や無免許運転、自販機荒らし、電話機荒らし等の非行が始まり、平成2年11月母が精神分裂病で入院したため、緊急一時保護を経て、平成2年12月19日から、弟とともに養護施設a学園に入所したが、このころから、家出や夜遊びが多くなり、入所後は、上記のとおり無断外泊や窃盗等の非行を反復するに至った。

少年の家庭は、親権者の母は精神分裂病で入院中であり、その退院の見通しは立っていないし、父は服役中で、平成3年11月に出所の予定ではあるが、その経歴や少年に対する従前の接し方から見ても、十分な監護を期待することはできず、少年らが居住していた借家は明渡しになり家もなくなっていることからも、少年の家庭に今後少年の監護は望めない。

少年は、中学校への登校状況が良くなく、その学力は低い水準にあるが、少年の現在の境遇に鑑みると、当面、少年に対して義務教育を受けさせることは、今後の自活のために不可欠である。

少年の交友関係は、前記認定にかかる非行や外泊等を共にする友人が多く、地元の不良仲間に広汎に及んでいると見られ、これら交友関係を途絶させなければ、今後少年が再犯に及び、非行性が深化する可能性が大きい。

少年の性格は活動性が高く即行的であり、嫌なことを考えまいとすることで安定を図る傾向が強く、内省的にものごとをとらえようとしないため、自己統制力が低いものとなっている。また、自己の弱い面を見せまいとして意地を張るため、円滑な対人交流を持つことができず、協調性に欠ける面があるというものであるが、これら性格は、少年の行状に関しては、前記認定にかかる無断外泊や非行に結びつき、また、施設内における粗暴な行為の原因ともなっていると見られ、その改善の必要は大きい。

以上の点に加え、少年が、前記認定のとおり児童相談所の指導に服さず、警察の再三にわたる補導にも従わないことも考えると、少年に対しては、もはや在宅の処遇は限界であると見られるが、少年の非行性は現時点においてはなお深化しておらず、また、その原因としては、家庭の基盤を失ったために自棄的な気持ちになっていることも大きく寄与していると見られ、家庭的な情緒的交流の回復による改善が望めるものと考えるので、この際、少年を教護院に送致することにする。また、少年のこれまでの行動や言動、特に少年がオートバイや自動車の無免許運転の経験を持つことや、長期の家出にも自信をつけていることなどから見て、少年は施設から逃亡する等規律違反の行動に及ぶ恐れが大きいので、そのような場合には、強制的措置が必要になるものと認められることから、平成3年10月17日から90日を限度として強制的措置を採り得ることとした。

よって、ぐ犯保護事件について、少年法24条1項2号を適用し、要強制事件については、同法23条1項、18条2項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 畠山新)

〔参考1〕送致書

中児第94号

平成3年9月18日

千葉家庭裁判所 御中

千葉県○○児童相談所長

児童の送致について

児童福祉法第27条の2の規定により、下記事件を送致いたします。

送致目的

少年は、養護施設入所中から、無断外出、窃盗、恐喝を繰り返して指導困難となり、措置変更を目的に一時保護したが相談所の指導にも応ぜず、開放的な施設での指導は困難と認められ、強制的な枠組の中での指導が必要と思料する。

事件本人

本籍地

市原市□□××─×

住所

香取郡□□町□□××─× a学園内

児童氏名

生年月日

昭和○年○月○日

学校

c中学校

その他

平成2年12月19日 a学園措置

平成3年7月24日 a学園措置停止 一時保護開始

保護者

住所

市原市□□××─×

氏名

続柄

実母

職業

無職 d病院へ入院中

家庭状

母 B S.○.○.○生 d病院入院中

本児 A S.○.○.○生 a学園e寮 措置停止中

弟 C S.○.○.○生 〃 措置中

妹 D S.○.○.○生 a学園 措置中

妹 E S.○.○.○生 〃 〃

送致理由

父母は、昭和63年1月協議離婚し母子家庭として生活保護を受給しながら生活していたが、母が精神分裂病で入院したため平成2年12月19日、養議施設a学園へ入所する。

少年は、中学生になった今年5月末より4回の無断外出を繰り返し、外出中は、市原市内を放浪、野宿し、自転車盗、万引き等の触法行為を行い、生活していた様子である。5回目の無断外出後、a学園e寮より措置変更の意見書を受けて、7月24日より当所で一時保護を開始する。一時保護したものの本児は保護所で安定せず、数日居ては無断外出し、現在4回目の無断外出中であり所在不明である。外出中の行動については、市原市内を転々と渡り歩き、野宿したり不良グループと遊び歩いているとのことである。また、その間自転車盗、自動車盗、恐喝、警備員への乱暴、万引きなどの行為を行なっている。関係機関の情報から判断すると少年が関わっているグループは、17~8才の少年を頭に中学生らが加わっており、そこへ無断外出した少年が加わって、自販機荒らし、ゲーム機荒らし、電話機荒らしなどをしている。

家庭は、母入院中であり住んでいた借家も明け渡しとなり、家はなくなっている。本児の兄弟は養護施設入所中。実父はb刑務所服役中で今年11月18日に出所予定であり、家族バラバラの崩壊家庭であり、指導力は全くない。

以上の状況から、このまま放置すれば窃盗、恐喝、道路交通法違反等の犯罪を犯す恐れがあり、他児童への悪影響、地域社会へ及ぼす弊害、更に本児自身の福祉を考慮すると身柄を拘束できる教護院での指導が必要と判断され、本児に対し強制的措置を取ることの許可を求める。

添付書類

1.児童記録票の写 2.a学園e寮の意見書の写 3.警察署からの通告書の写 4.戸籍謄本の写

処遇意見

要強制期間90日が適当

〔参考2〕送致書

中児第98號

平成3年10月1日

千葉家庭裁判所 御中

千葉県○○児童相談所長

児童の送致について

児童福祉法第27条第1項第4号の規定により、下記事件を送致いたします。

送致目的

少年は、養護施設入所中から、無断外出、窃盗、恐喝を繰り返して指導困難となり、措置変更を目的に一時保護したが、やはり無断外出を繰り返して児童相談所の指導にも応じないため、家裁の審判に付することが適当と認められる。

事件本人

本籍地

市原市□□××

住所

香取郡□□町□□××─× a学園内

児童氏名

生年月日

昭和○年○月○日

学校

c中学校

その他

平成2年12月19日 a学園措置

平成3年7月24日 a学園措置停止 一時保護開始

保護者

住所

市原市□□××─×

氏名

続柄

実母

職業

無職d病院へ入院中

家庭状況

母 B S.○.○.○生 d病院入院中

本児 A S.○.○.○生 a学園e寮 措置停止中

弟 C S.○.○.○生 〃 措置中

妹 D S.○.○.○生 a学園 措置中

妹 E S.○.○.○生 〃 〃

送致理由

父母は、昭和63年1月協議離婚し母子家庭として生活保護を受給しながら生活していたが、母が精神分裂病で入院したため平成2年12月19日、養護施設a学園へ入所する。

少年は、中学生になった今年5月末より4回の無断外出を繰り返し、外出中は、市原市内を放浪、野宿し、自転車盗、万引き等の触法行為を行い、生活していた様子である。5回目の無断外出後、a学園e寮より措置変更の意見書を受けて、7月24日より当所で一時保護を開始する。一時保護したものの少年は保護所で安定せず、数日居ては無断外出し、現在まで4回繰り返している。外出中の行動については、市原市内を転渡と渡り歩き、野宿したり不良グループと遊び歩いているとのことである。また、その間自転車盗、自動車盗、恐喝、警備員への乱暴、万引きなどの行為を行なっている。関係機関の情報から判断すると少年が関わっているグループは、17~8才の少年を頭に中学生らが加わっており、そこへ無断外出した少年が加わって、自販機荒らし、ゲーム機荒らし電話機荒らしなどをしている。9月18日には、a学園を無断外出して少年と行動を共にしていた弟・Cが原付自転車運転で交通事故を起こして負傷しており、現在d病院へ入院中である。

家庭は、母入院中であり住んでいた借家も明け渡しとなり、家はなくなっている。少年の兄弟は養護施設入所中。実父はb刑務所服役中で今年11月18日に出所予定であり、家族バラバラの崩壊家庭であり、指導力は全くない。

以上の状況から、今後も窃盗、恐喝、傷害、道路交通法違反等の犯罪を犯す恐れがあり、他児童への悪影響、地域社会へ及ぼす弊害、更に少年自身の福祉を考慮すると、家裁の審判に付することが適当である。

添付書類

添付書類については、平成3年9月18日付中児第94号で送致した文書の添付書類を参照願いたい。

処遇意見

国立教護院が適当

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